【日本経済新聞】製造業の基本「売上原価重視」を球団経営に取り入れた、広島カープの黒字経営

なぜ広島カープは堅実経営を守り続けるのか?

その疑問を紐解くカギは、「市民球団」という広島カープならではの立ち位置。

1983年、広島カープの取締役に就任し、売上原価の重視を球団経営に取り入れた松田オーナーの苦闘の日々がつまびらかにされました。

昨年の優勝時のインタビューをどうぞ。

[blogcard url=’https://blueazure.jp/sacchi/sports/hiroshimacarp/20396/’ width=” height=’150px’ class=” style=”]

【日本経済新聞】心休まるのは大みそか カープ流経営学

 9月10日夜、広島東洋カープ(広島市)のオーナー兼社長、松田元(65)はセ・リーグ優勝の瞬間を自宅のテレビで見た。もともと試合は見ない主義。本拠地マツダスタジアム(同)で観戦する時も五回になると帰宅する。「気が弱いもんじゃけえ」と笑うが、周囲は白熱した試合を直視できないほどチーム愛が深いことを知っている。

 抑え投手の中崎翔太(24)が最後のバッターを仕留め、マウンド付近で選手の歓喜の輪ができる中、黒田博樹(41)と新井貴浩(39)のベテランが抱き合い涙を流した。「あれが目に入ってホロッときてしもうた」

引用:日本経済新聞

 生え抜き選手が主力になると高額年俸を求めてチームを出ていく。貧乏球団の悲哀と悔しさを味わってきた。だが一度はチームを離れた黒田と新井が、昨年「カープのために」と8年ぶりに戻った。2人の帰還と活躍が今のカープを象徴する。

 松田は1951年に広島で生まれた。マツダの創業者、松田重次郎は曽祖父で、祖父の恒次、父の耕平が歴代の社長を務めた。耕平の長男の松田も73年に慶大を卒業し77年に入社した。現社長の小飼雅道(62)は同期だ。松田は「最初は経理、次に部品販売、その次は米州課で生産手配の仕事をした」と振り返る。

 当時はマツダも創業家も転換期にあった。世界で初めて量産したロータリーエンジン車は燃費に難があり、石油ショックで大打撃を受けた。父・耕平は業績悪化のため77年に代表権のない会長に退いた。経営の主導権は住友銀行(現三井住友銀行)が握り、創業家への風当たりも厳しかった。

 82年にマツダを去った松田は83年にカープの取締役に就任。以後は球団経営一筋だ。松田は「5年間で培ったビジネス感覚が経営の底流にある。今の自分があるのはマツダのおかげ」と言う。財務では、売上原価を重視する。製造業では経営のイロハだが、球団経営で耳にするのは珍しい。

 カープは初優勝した75年度(12月期)から41年連続で黒字経営を続ける。「堅実経営」と評価されるが、実は黒字でなければならない理由がある。親会社を持たない唯一の市民球団だからだ。

 近畿日本鉄道が球団経営からの撤退を表明した2004年、球団の年間赤字額は40億円だった。大きな親会社の存在がそれを許したが、カープの場合は15年度の純資産が50億円強だ。近鉄並みの赤字を出せば、2年と持たず債務超過に陥る。

 93年に始まったフリーエージェント(FA)制度や新人ドラフトの「逆指名制度」は選手の年俸や契約金を大幅に膨らませた。カープから主力選手が次々にFAで引き抜かれる一方、資金に限界があって補強はままならなかった。91年以来、カープが優勝から遠ざかった理由はここにある。

引用:日本経済新聞

 経費を抑えても強くなるため球団は様々な試みをした。一つが外国人の有望な人材を発掘・育成するためドミニカ共和国に90年に設立した「カープアカデミー」だ。才能に恵まれた選手を輩出する中米に目をつけた。

 国選びから開校まで全てを取り仕切ったのが松田だ。「内戦中だったニカラグアまで行ってスポーツ担当大臣だった軍人と交渉したこともあった」。ドミニカのアカデミーからは発足後、カープはじめ日本球界で活躍する選手だけでなく米大リーガーも生んでいる。

 「毎年黒字にできても勝てなかったから『ケチだ』『弱すぎる』などと散々に言われた」と話す松田と球団にとって起死回生となったのがマツダスタジアムの完成だ。旧市民球場最後の08年度に71億円だった売上高は新球場初年度の09年度に117億円、15年度は148億円と7年で倍増した。観客増が資金増、戦力向上につながる好循環が到来。製造業の論理を取り入れた松田流がようやく実を結び始めた。

 オーナーを引き継いで14年。「毎年一番心が休まるのは大みそか。この1年なんとか利益が出せたとホッとするんよね」と松田はスタジアム内の執務室でつぶやく。最も憂鬱になるのは元旦。「また一から利益を積み上げなければ」と考えるからだ。12日からDeNAとのクライマックスシリーズを控える今も「やることが多いのに時間がない」と、松田の頭は既に来期に向かっている。

引用:日本経済新聞

[blogcard url=’https://www.nikkei.com/article/DGXLASFB06HE0_W6A001C1SHA000/’ width=” height=’150px’ class=” style=”]