企業再生ストーリー「陸王」は役所広司が引き受けた時点で成功が約束された

TBSドラマ「陸王」の役所広司・寺尾聰・市川右團次・光石研・山﨑賢人

TBSドラマ「陸王」の役所広司・寺尾聰・市川右團次・光石研・山﨑賢人

元日の午前からお昼時までに初詣、お墓参りを済ませ、カメラ片手に撮影散歩をしたあと、家にこもってここぞとばかりにインドアライフを送るのが毎年恒例の過ごし方です。

例年通り、今年もまったりと過ごしていますが、いつもなら読書やブログトピックスのピックアップ、ネットサーフなどを中心に楽しむのを、今年はガッツリとドラマ三昧。

そのきっかけは、観たかったドラマの一挙再放送が続く番組構成を目にして。

しかも、ここ数年で「一番観たかったああぁぁぁぁ!!!!」と、リアルタイムで観れなかったことを悔やんだ作品がまとめて放送されるとあっちゃあ、観ない選択肢などどこにもなああい!!!!(なぜ新年早々前のめりで熱いのだと我が身に問いたい)

それが、「涙なしには観れません!」(完全にむせび泣き)状態に陥った「陸王」。代々続いてきた老舗足袋業者の存続をかけ、ランニングシューズづくりという新規事業に挑む企業再生ストーリーです。

http://www.tbs.co.jp/rikuou_tbs/

物語に引き込まれ、気づけば登場人物と駆け抜けることに

TBSドラマ「陸王」の寺尾聰と山﨑賢人とこはぜ屋の面々

2018年末に第一話から最終話まで再放送された「陸王」は、老舗足袋業者「こはぜ屋」の四代目社長・宮沢紘一を中心に、一丸となって挑戦した企業再生を軸に、ランニングシューズを取り巻く業界闘争や陸上選手の舞台裏まで描かれた、熟成された大人のドラマ。

本放送当時、大反響を呼んだ本作ですが、観て納得。物語にグイグイ引き込まれ、気づけば最終回まで登場人物と一緒に全速力で駆け抜けることに。

いっさいの期待を裏切らない素晴らしい作品でした。

役者業界を広く見渡しても稀有な存在感が光る役所広司

TBSドラマ「陸王」の役所広司と松岡修造

「陸王」を語るうえで、もっとも欠かせないのが、主人公・宮沢紘一を演じた役所広司さん。

これまで幾度も息を呑むほど心を揺さぶられたその存在感は、本作でも健在。それどころか、「役所広司の代わりなどこの世に存在しない」とまで唸らされることに。

役柄によって表情から立ち姿、ちょっとした仕草まで、きちんと演じ分けたうえで別人として成立させることができる役者は、役者業界を広く見渡しても実は稀有。憑依とも異なり、「ただただその役が実在している」といった印象です。

周囲の人々を、あるときは受け止め、あるときは突っぱね、あるときは手を取り合い、あるときはぶつかりあう。

そのときどきの立場や心情を巧みに表現しながら、周囲をすべて許容し、ドキュメンタリーであるかの錯覚を起こさせるリアルな物語として伝えてくる。そこには多くの言葉は必要なく、いつしか惹かれているのです。

まさに唯一無二の役者。常に役所さんの魂をそこに感じることができるのは、映像作品好きとしてこれほど幸せなことはないと断言できます。

役者人生の晩年に、なおも新境地を切り拓いた寺尾聰

TBSドラマ「陸王」の役所広司と寺尾聰と音尾琢真

その役所さんと双璧を成すかのごとく物語を引き締めるのは、寺尾聰さん。

彼が演じたのは、ランニングシューズ“陸王”商品化の決め手となった特許素材“シルクレイ”の生みの親・飯山晴之。人生の悲哀をも内包し、宮沢の息子、大地が敬愛する師としても大きな存在になる役どころです。

役者人生の晩年に差しかかり、なおも新境地を切り拓いた今回の役は、「間違いなく寺尾聰でなければ成しえなかった」と感服。

酸いも甘いも噛み分けた渋みを感じる語り口に、宮沢社長との重厚味あふれる共闘関係と信愛。その姿は、長いこと役者業界を牽引してきた役所さんと寺尾さんにも重なり、グッときます。

全員が役そのものの演技巧者ぶりで魅せたベテラン勢

TBSドラマ「陸王」の役所広司と志賀廣太郎と市川右團次と音尾琢真と阿川佐和子

本作で注目したいのは、役所さん、寺尾さんのみならず、優れた役者が厳選されていること。

志賀廣太郎さん、檀ふみさん、市川右團次さん、光石研さん、キムラ緑子さん、音尾琢真さん、ピエール瀧さん、小藪千豊さんなど、脇を固めるいぶし銀がズラリ。

全員が役そのものの演技巧者ぶりに、自然と前のめりで見入ってしまう時間を過ごすことに。

「こはぜ屋」がランニングシューズ業界に挑戦したのと同じように、役者デビューを果たした阿川佐和子さん、松岡修造さんの瑞々しい好演も胸を打つものがありました。

人生の荒波を乗り越えてきた大人たちの共演。それなりに経験を積んできた人たちほど強く惹かれるはずです。

ベテランに呼応し、作品を通じ成長までうかがえた若手陣

TBSドラマ「陸王」の竹内涼真

ベテラン勢だけでなく、若手陣の活躍が光ったのも本作ならでは。

かつて箱根を制し、将来を嘱望されるなかで負った大怪我からの復活に挑む、物語のキーマンとなる陸上選手・茂木裕人役の竹内涼真さん。

就活がうまくいかずくすぶっていた時期を過ごし、家業を手伝いながら成長して自分の道を見つけていく長男・宮沢大地役の山﨑賢人さん。

ランニングシューズ“陸王”開発の一端を担い、常に「こはぜ屋」を想いながら、仲間として熱く生きる銀行員・坂本太郎役の風間俊介さん。

坂本とは対象的に出世や利益のために生きながらも、自分なりの正義を貫き、社長の宮沢に感化されていく銀行員・大橋浩役の馬場徹さん。

ベテランの質の高い演技に呼応するように、彼らを筆頭に若手役者たちは己の人生をかけたかの熱演で盛り上げ、作品を通じて成長までうかがえました。

ベテランにしても若手にしても、配役が絶妙。役者が持つポテンシャルや個性がそれぞれの役柄にここまでピタリとハマったドラマはめずらしいといえます。

世代を超えて「陸王」に惹かれた人が増えた自然現象

TBSドラマ「陸王」の役所広司と山﨑賢人

全話を見終えたいま、2017年10月期ドラマとして放送された当時、世代を超えて「陸王」に惹かれた人が増えていった現象にも、「ごく自然なこと」との想いを抱いています。

登場人物の年代や属性が幅広く、その全員がそれぞれで悩みや葛藤、挫折を抱えており、容赦ない厳しい現実と闘いながらも、そこからどう自分の人生を実りある豊かなものにするか。

こうした「復活」「挑戦」「再生」の物語が、愛情を込めて丁寧に紡がれていたからです。

お仕事ドラマとして定評のある池井戸潤氏原作の作品だけあって、一見すると弱き存在に思われる者たちのたくましさとしなやかさ、そして鮮やかな逆転劇の描き方は「お見事」の一言。

日曜の夜、「陸王」を観ながら手に汗握り、登場人物たちと走りながら苦しさとともに爽快感を味わい、月曜からの活力にする。

ともすればターゲットが絞りきれず説得力に欠けるという定説をくつがえす、すべての世代にスポットを当てた名作として圧巻の出来でした。

役所広司が引き受けた時点で、「陸王」の成功は約束されていた

TBSドラマ「陸王」の役所広司

誰が欠けても成り立たず、誰もがすべてたいせつで愛おしい存在。

それは老舗足袋業者「こはぜ屋」の宮沢社長が、家族を、社員を、仲間を、そしてそのときどきで触れ合った多くの人たちを、不器用ながらも温かく優しく愛し続けるのと等しい世界観です。

この役を役所広司さんが引き受けた時点で、ドラマ「陸王」の成功は約束されていた。

そこまで確信させたその役者魂に、いまあらためて、こころから敬意を表します。

http://www.tbs.co.jp/rikuou_tbs/