【ともしび】灯火/THIS WORD THEME is MY DEAR KACCHAN/たいせつなひと
2015/10/31
小さくて泣き虫で甘えん坊
昼寝をしている間に、
歩いて5分のスーパーに出かけた母の足あとを追って、
涙と汗でぐしゃぐしゃにした顔を気にする余裕なんてもちろんないまま、
遊んでおくれ、とせがんでくる、電信柱やポストと鬼ごっこしながら、
走っては転び、転んでは走る子だった
そうして目の前に現れた我が子を、
小鳥のさえずりのような耳障りのいい笑い声をあげながら、
いとおしげに、その大きな大きな、
なによりも心地よくて温かいふところに導いてくれる母だった
いつも逢えなくなって、幾年が経つだろう
そして
いつも逢いたいと思わなくなって、幾年が経つだろう
小さくて泣き虫で甘えん坊だった子は、
転んでは作ったすり傷とひきかえに、
気づけばいつしか大きくなっていた
大きくて心地よくて温かかった母は、
我が子の灯火に自らの灯火をわけ与えたように、
気づけばいつしか小さくなっていた
いつも逢いたいと思わなくても、
いつも母の灯火がその胸に在ることを、
今でもちょっと泣き虫のその子は誰よりも知っている